この日は珍しく夫と師匠と3人で出猟。
師匠といつも行っている林道へ、いつも通りスキーを履いて歩いて向かった。
坂を登りきった場所から見える沢が鹿の通り道だ。
ゆっくり顔を出して覗くと5頭くらいの鹿がいた。射程距離内だ、スコープを覗いて狙う。
よし、と思った途端「バーーーン」と鳴り響く銃声。
どうやら師匠が撃ったようだ。
自分が狙っていた個体を含め、あたり一帯にいた鹿がわぁっと一斉に走って逃げて行く。
「あぁ、もう少しで私も撃てそうだったのに」という正直な落胆もしつつ、その他の走った鹿を夫と二人で探すべく少しあるいたけれど見失ってしまった。
「当たったと思う」と言っていた師匠が撃った鹿は探したけれどいなかったらしい。
それから、鹿のいるポイントをいくつか見る。射程からは遠いけれど、たくさんの個体が見える。
それらを回り込んで狙う作戦だ。
「自分が狙っていた獲物をもう少しのところで打ち損ねた」とひとりムキになっていた私は、林の中先頭をずんずん歩いた。
(先に獲物を見つけ撃てる体制になった人が先に撃つのはもちろん当たり前の話であるのは理解している、単に悔しかった)
少し遠くに20頭くらいの群れが見えた。少し近づいて撃てるだろうか。
そう考えていたら後ろから大きな笑い声。夫だ。
先ほどの群れはその笑い声に驚いて一気に走っていなくなってしまった。
「大きい声出さないでくれよ・・・」とムッと後ろを振り返ると、師匠が顔から雪に突っ込んで転んでいた。
新雪の中に隠れた笹に足を引っ掛けられたらしい。
しばらくそのまま動かなかったので「心臓発作とかで倒れたかも」と夫は本気で心配したらしい。
身体の硬い師匠はスキーが脱げない、一人では立てない、と夫と引っ張りあったりしていた。鉄砲も使い物にならないほど雪だるまだ。
立ち上がり、鉄砲の掃除を一通りして歩き出した師匠は、なぜか数10メートルでまた転び雪だるまになっていた。
みんなでゲラゲラ笑って「もうお昼ご飯にしよう!」ということになった。
ご飯を食べ終わって、気持ちを新たに歩く。
少し行くと林の中30mくらい先から突然子鹿が出てきて私たちの前を横切り、向かいの林に入って行った。
こんなに近くにいたとは気づかず、師匠と顔を合わせ目を丸くする。
林の中をよく見ると、3頭の群れだった。
木の間隔が狭くよく見えないが、今いる場所では自分の持っている銃の射程からは少し遠かった。
一か八かで近づいてみると、鹿が私のいる位置からスパッと木の間に見えた。
膝立ちで慎重に狙う。
スコープの中で鹿がピタッっと止まった時、引き金を引いた。
その場で鹿が倒れた姿が見えた。
やっと、やっとだ・・・
今シーズン20回くらい猟に通って、何発も外してやっと当たった。
弾は狙った通り前胸部に当たっていた。なんだかすごく安堵し、「大切に食べるからね」と思った。
そこから解体をして、3人で肉を担いでスキーで滑り降りた。
この日、学んだことは「多くの事柄は自分一人の都合では決められないことなのだから、ムキになって焦っても仕方がない」
「肩の力が抜けた時の方がかえって良い結果になることが多い」ということかもしれない。
スキー選手をしていた時のことを少し思い出した。
家に帰って、早速ハツを焼いて持って師匠の家でみんなでお酒を飲んだ。
とても嬉しい日になった。
投稿者: @ggguriyuuuThreadsで見る